ツォディロ丘陵(Tsodilo Hills)は、ボツワナ北西部、カラハリ砂漠の中に位置する岩山群で、2001年にユネスコ世界遺産に登録されました。この遺産は、人類の長い営みと精神文化を示す岩絵や考古遺跡が集中する場所として、世界的に高い価値を持っています。丘陵は数本の巨大なクォーツ岩からなり、乾燥地帯の広大な景観の中に聳え立つため、古代から人々にとって避難所・水源・信仰の場として重要な役割を果たしてきました。
最大の特徴は、約10平方キロメートルの範囲に4,500点以上の岩絵が存在することです。これらの岩絵は旧石器時代から19世紀にかけて描かれ、狩猟や採集、牧畜、交易、宗教儀礼など、過去の人々の生活や社会の変化を視覚的に伝える重要な記録です。動物や人間、幾何学模様など多彩なモチーフが描かれており、「砂漠のルーヴル」とも称されます。
さらに、ツォディロ丘陵は文化的・宗教的な意義も持っています。サン人やハムブクシュゥなどの先住民コミュニティにとって、丘陵は聖地として崇められ、先祖の霊が宿る場所とされ、儀礼や祭祀が今も行われています。地形や岩棚は神話や伝承と結びつき、自然と信仰が一体化した文化景観として評価されています。
保全面では、丘陵の遠隔性や岩の耐久性により比較的良好な状態が維持されていますが、観光による影響や落書き、資源開発の可能性などが課題です。そのため、地元コミュニティと連携した管理体制が整備され、文化と自然の両面を守る取り組みが進められています。

ツォディロ丘陵は、岩絵と自然景観、先住民の信仰文化が融合した、アフリカ南部における貴重な文化遺産です。乾いた砂漠の中でひっそりと佇むこの丘陵は、人類の長い歴史と大地との関わり、信仰の営みを今に伝えています。
