「ヴォルタ州、グレーター・アクラ州、セントラル州、ウェスタン州の城塞群)」は、ガーナ共和国の大西洋岸に点在するヨーロッパ諸国の築いた要塞・城塞群で、1979年にユネスコの世界文化遺産に登録された。これらは15世紀後半から18世紀にかけて、ヨーロッパ列強が金・象牙・奴隷貿易を支配するために築いたもので、アフリカ西海岸における交易と植民地支配の歴史を象徴する遺構群である。
この地域の海岸線には、ポルトガル人、オランダ人、デンマーク人、イギリス人などが次々に進出し、それぞれが自国の商館や要塞を建設した。代表的なものには、エルミナ城(Elmina Castle)、ケープ・コースト城(Cape Coast Castle)、クリスチャンズボーグ城(Christiansborg Castle)などがある。これらは当初、金交易の拠点として建設されたが、やがて大西洋奴隷貿易の中心地へと変貌した。
とりわけ**エルミナ城(1482年築)**は、サハラ以南アフリカで最も古いヨーロッパ建築とされる。白い石造の堅固な城壁に囲まれたその内部には、交易倉庫、礼拝堂、司令官の部屋、そして奴隷を収容する地下牢が存在し、当時の非人道的な歴史を今に伝えている。ケープ・コースト城もまた、奴隷を船積みする最後の場所「ドア・オブ・ノー・リターン(帰らざる扉)」を持ち、数百万ものアフリカ人がここから新大陸へと送られたとされる。
これらの城塞は、石灰岩や花崗岩を用いた堅牢な構造を持ち、ヨーロッパの築城技術とアフリカ現地の建築技法が融合している点でも注目される。長い年月の間に、戦争・占領・所有権の移転が繰り返され、同じ建物がポルトガル、オランダ、デンマーク、イギリスといった複数の国々の支配下に置かれたこともあった。そのため、建築様式には各国の文化的影響が混在し、多層的な歴史の痕跡が刻まれている。
今日では、これらの城塞群は奴隷制の悲劇を語り継ぐ記念碑として保存・公開されている。ユネスコはその登録理由として、「人類史上最大の強制移住である大西洋奴隷貿易の物的証拠を伝える遺産であり、人権と自由の尊厳を再認識させる普遍的価値をもつ」と評価している。また、城塞の多くは現在、博物館や教育施設として整備され、アフリカのディアスポラ(離散した人々)が先祖の足跡を辿る場所として世界中から訪れている。
「ヴォルタ州、グレーター・アクラ州、セントラル州、ウェスタン州の城塞群」は、交易・植民・奴隷制という複雑な過去を物語るとともに、人類が歴史から学び、平和と尊厳の価値を未来へ継承するための記憶の場として、今なお世界的に重要な意義を持っている。
| 国名 / エリア | アフリカ / ガーナ |
|---|---|
| 登録年 | 1979年 |
| 登録基準 | 文化遺産 (vi) |
| 備考 | ■関連サイト Forts and Castles, Volta, Greater Accra, Central and Western Regions(UNESCO) |
