「テトゥアン旧市街(Medina of Tetouan)」は、モロッコ北部の都市テトゥアンに位置する歴史的市街地で、1997年にユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されました。地中海沿岸に近く、ジブラルタル海峡の戦略的拠点として発展したこの都市は、イスラム文化とアンダルシア文化が融合した独自の都市景観を持つことで知られています。特に、15世紀末から16世紀初頭にかけてイベリア半島から追放されたモリスコ(ムーア人の子孫)が移住したことにより、アンダルシア風の建築、街路、生活文化が色濃く残る都市となりました。
旧市街は、細い路地や曲がりくねった小径、内部に開かれた中庭を持つ住宅群、装飾的な門やモスクで構成され、モロッコ国内でも特に保存状態が良いメディナの一つです。市街全体の都市計画はアンダルシア都市の影響を受け、宗教・生活・商業空間が巧みに融合しており、訪れる者は中世から近世にかけてのイスラム都市生活の様子を体感できます。特に、アル・カサバ門やモスク群、公共広場や伝統市場(スーク)は、都市の社会構造と文化活動を理解する上で重要な要素です。
テトゥアン旧市街の文化的価値は、建築様式だけでなく、住民の生活文化の継承にも見られます。家屋は白壁と赤瓦の屋根で統一され、屋内の中庭や噴水は、プライバシーを重視するイスラム住宅の特徴を示しています。また、手工芸や陶器、織物、木工など伝統技術が今も旧市街で営まれ、日常生活と文化の連続性が保持されています。こうした点は、都市景観が単なる歴史的遺構にとどまらず、生きた文化遺産として機能していることを示しています。
さらに、テトゥアンは、イスラム学問や宗教活動の中心地としても発展し、多くのマドラサ(イスラム学校)や宗教施設が建設されました。これにより、都市は商業・宗教・教育の三者が密接に結びついた多層的都市として成立しています。旧市街全体が保持するアンダルシア文化の美的要素、都市計画の合理性、生活文化の継承は、北アフリカにおける他都市には見られない特異性を持ちます。
世界遺産としての保全課題も存在します。人口増加や都市化、観光圧力、環境的劣化などにより、建物や路地の保存状態が脅かされる可能性があります。ユネスコとモロッコ政府は、住民と協力した保全管理や修復活動、伝統文化の継承支援を行っており、都市景観と生活文化の両立を目指しています。
総じて、テトゥアン旧市街は、アンダルシア文化とイスラム都市文化の融合、伝統的建築の保存、生活文化の継続性を総合的に理解できる貴重な都市遺産です。曲がりくねった路地を歩き、伝統市場やモスクを巡ることで、訪問者は中世から現代に至る北アフリカの都市生活と文化の息吹を実感できる、世界的に希少な文化財といえます。
| 国名 / エリア | アフリカ / モロッコ |
|---|---|
| 登録年 | 1997 |
| 登録基準 | 文化遺産 (ii) (iv) (v) |
| 備考 | ■関連サイト Medina of Tétouan (formerly known as Titawin)(UNESCO) |
