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バリ州の文化的景観の概要
「バリ州の文化的景観:トリ・ヒタ・カラナの哲学を表現したスバック・システム」は、リゾート地としても人気の、インドネシアのバリ島にある世界文化遺産です。
バリ島は、バリ・ヒンドゥー教にまつわる伝統的な寺院が数多くあることから、「神々が住む島」とも呼ばれ、雄大な自然にも恵まれています。
その内陸部の山の斜面には、椰子の木に囲まれた幾重にもなる棚田や、湖や水にまつわる寺院を含む美しい景色があります。これらは、バリ・ヒンドゥー教の哲学に基づいた水利システム「スバック」によって支えられています。水を神と崇めるバリの人々が長い年月をかけて創り上げ、受け継いできたものです。
バリ・ヒンドゥー教の歴史
インドネシアは国民の約9割がイスラム教徒ですが、バリ島だけは、ヒンドゥー教徒が人口の約9割を占めています。バリ島のバリ・ヒンドゥー教は、従来のインド・ヒンドゥー教ではなく、独自の発展を遂げました。
元々、紀元前からこの島には人が住んでおり、土着宗教がありました。4~5 世紀、西に隣接するジャワ島から、インド・ヒンドゥー教と仏教が伝わりました。
8世紀頃にはジャワ島から多くのヒンドゥー教の高僧がバリ島を訪れ、寺院の建立や文化の伝来が行われました。それを機に土着宗教と仏教が入り交じり、ジャワ島で栄えたジャワ・ヒンドゥー教とは、少し違った風習を持つ宗教が根づいてきました。
13世紀の終わりごろからヒンドゥー教国、マジャパヒト王国がインドネシアの広範囲を支配していましたが、16世紀に入ると、イスラム勢力の台頭により衰退。ヒンドゥー教徒たちは追われる形でバリへ移動していきました。そして、バリ島内のヒンドゥー化が一気に進み、現代のバリ・ヒンドゥー教が確立しました。
世界遺産登録の経緯
水の女神が住むとされる「バトゥール湖」、女神を祀る「ウルン・ダヌ・バトゥール寺院」、バリ島最大規模の「タマン・アユン寺院」、「ペクリサン川流域のスバックの景観」、「バトゥカル山のスバック景観」。
この5つの構成資産が2012年に世界文化遺産に登録されました。
これらに含まれる美しい棚田の景観や灌漑施設、水利システム「スバック」を司る寺院は、「トリ・ヒタ・カラナ」という概念に基づいて作られました。
「トリ・ヒタ・カラナ」とはバリ・ヒンドゥー教の哲学に基づいた概念で、神と人と自然が調和することで、人々は幸福に生きることができるというものです。
9世紀にはこの概念を基に「スバック」が作られました。「スバック」とは棚田を守るために、寺院に集められた水を管理し、分け合う水利システムです。バリ・ヒンドゥー教では水が神格化されているので、スバックの運営と行事が結びついています。
バリの高低差がある地形と、熱帯雨林気候がもたらす肥沃な土壌は、住民の主食である米の栽培に適した環境でした。さらに「スバック」というシステムによって、平地と山間部へ水を引くことができるようになり、米の収穫がさらに豊かなものになりました。
11世紀以来、バリ島内には多くのスバックがあり、寺院が管理してきました。水源から流れてきた水は一旦寺院で清められ、神聖な水として農民たちが手掘りで切り拓いた水路を通り、各水田に平等に分配されています。
このバリに古くから伝わるバリ・ヒンドゥー教の哲学を基にしてつくられた独自の水田のシステムとその景観が独特であり、文化的であることが評価されています。
登録された5つの構成資産
バトゥール湖
バトゥール湖は近隣にあるバトゥール山の噴火によって生まれました。バトゥール湖の別名は「バリの水がめ」と言い、スバックにとって重要な川や泉を生み出した女神の住処と考えられています。
湖畔を進んでいくと、バトゥール温泉があります。日帰り温泉のような設備で、バトゥール湖を眺めながらお湯につかれるのも魅力です。
ウルン・ダヌ・バトゥール寺院
ウルン・ダヌ・バトゥール寺院はバトゥール湖を見下ろすように佇む美しい寺院です。
水の神で、バトゥール湖の守護神デウィ・ウルン・ダヌという女神を祀っています。女神はすべての川や泉の母神となったと信じられており、スバックにとって重要な役割を果たしています。
この寺院はバリ島にヒンドゥー教が渡ってくる以前は仏教のお寺だったため、仏も祀られています。
1つの寺院内にヒンドゥー教の社と仏教の社が見られることは、バリ島ならではの特徴です。
ペクリサン川流域のスバック景観
パクリサン川流域のスバックは最古のスバックと言われ、いくつもの美しい田園風景が広がっています。
なつかしさを感じる絶景として観光客にも大変人気があるスポットです。
この流域には9世紀に建てられた水の寺院、ティルタ・エンプル寺院があります。多くのヒンドゥー教徒が沐浴に来ることでも有名です。魔王に殺された神々が、この寺院の聖水により蘇ったという伝説から、ここの泉には浄化・解毒・魔除の効果があるとされています。
タマン・アユン寺院
タマン・アユン寺院はバリの中でも最大規模であり、最も美しい寺院と言われています。
1600年代に最大勢力を誇っていたメングウィン王国の護国寺院として建立されました。
王国が滅亡した19世紀後半にタマン・アユン寺院は一時期荒廃しましたが、1937年に修復されました。バリの人々の心の拠り所として大切な祈りの場所となっています。
高くそびえるメルと呼ばれる塔が多く建てられているのが特徴です。タマン・アユンは「美しい庭園」という意味で、その名が示すように、長く続く石畳の回廊、南国の花々、穏やかに流れる小川などがある風光明媚な庭園をめぐることができます。
バトゥカル山のスバック景観
バトゥカウ山保護地区のスバックでは、ジャティルイ村の棚田が有名です。スケールが大きいのが特徴で、圧倒されます。ジャティルイは「本当に素晴らしい」という意味があります。その名の通り、美しく素晴らしい棚田です。
生物の多様性が保たれ、水田の管理状態もよく保たれています。手付かずの自然が多く残されており、素朴なバリの村人の暮らしを垣間見ることができるのも魅力です。
国名 / エリア | アジア / インドネシア |
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登録年 | 2012 |
登録基準 | 文化遺産 (ii) (iii) (v) (vi) |
備考 | ■関連サイト Cultural Landscape of Bali Province: the Subak System as a Manifestation of the Tri Hita Karana Philosophy(UNESCO) |