「ティール」は、レバノン南部の地中海沿岸に位置する古代フェニキア文明の重要な都市遺跡で、1984年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。紀元前3千年紀に遡る歴史を持ち、特に紀元前1千年紀にはフェニキア人の海上貿易の拠点として繁栄し、地中海世界に大きな影響を与えました。
ティールは、フェニキア人による紫の染料(ティリアン・パープル)の製造地として知られ、この染料は古代において王侯貴族しか使用できない高級品でした。また、ティールはカルタゴなど数々の植民都市を築いた海洋帝国の母体でもあり、その影響は北アフリカや西地中海にまで及びました。
ローマ帝国時代にはさらに発展を遂げ、都市には壮麗な凱旋門、水道橋、ローマ式劇場、ヒッポドローム(競技場)などが整備されました。現在でもそれらの遺構が良好に残されており、古代都市計画と建築の粋を今に伝える貴重な遺産です。
また、ティールは様々な文化と宗教が交差した地であり、フェニキア、ギリシャ、ローマ、ビザンティン、イスラムといった多様な文明が重層的に残された都市遺跡でもあります。
「ティール」は、古代地中海文明の交流と繁栄を象徴する港湾都市として、考古学的・歴史的に極めて重要な世界遺産です。