リベイラ・グランデの歴史地区(シダーデ・ヴェーリャ)は、アフリカ西岸沖、カーボベルデ共和国のサンティアゴ島南西部に位置する都市遺産であり、2009年にユネスコ世界文化遺産に登録された。ポルトガル語で「古い町」を意味するシダーデ・ヴェーリャ(Cidade Velha)は、西アフリカにおける最初のヨーロッパ人植民都市として知られ、15世紀後半の大航海時代に築かれた。かつてこの地は「リベイラ・グランデ(Ribeira Grande)」と呼ばれ、ポルトガル帝国の重要な拠点、そしてアフリカと新大陸を結ぶ大西洋交易の中継地として繁栄した。
1462年にポルトガル人入植者によって建設されたリベイラ・グランデは、アフリカ大陸沿岸におけるヨーロッパ植民活動の出発点となった。地理的に大西洋航路の中継地であったことから、アフリカ、ヨーロッパ、南米を結ぶ貿易ネットワークの中心となり、特に奴隷貿易の拠点として歴史的に重要な役割を果たした。ここから多くのアフリカ人が新世界へと連行され、同時にヨーロッパの文化や宗教がアフリカ社会へ浸透していったのである。
市街には、当時の面影を伝える建造物や遺構が数多く残る。特に有名なのは、アフリカ最古の植民地時代の教会とされる「ノッサ・セニョーラ・ド・ロザリオ教会」で、1480年代に建設されたゴシック様式の建築である。また、海岸近くの「王の広場(ペロー広場)」には、ポルトガル王権の象徴である石柱(ペロリーニョ)が今もそびえ立ち、かつて奴隷市場が開かれた歴史を静かに伝えている。さらに、町を見下ろす丘の上には、1550年代に築かれた「サン・フェリペ要塞」があり、外敵や海賊の襲撃から町を守る重要な防衛拠点であった。この要塞からは、かつての交易港と町並みを一望でき、往時の繁栄と緊張に満ちた歴史を偲ぶことができる。
リベイラ・グランデは、16世紀にはアフリカと新世界を結ぶポルトガル植民帝国の中心的存在として栄えたが、17世紀以降、他の植民都市の発展や海賊襲撃の増加により次第に衰退し、18世紀にはその役割を失っていった。しかし、残された街並みや遺構は、大航海時代の世界交流のはじまりを象徴する貴重な遺産であり、アフリカにおける植民地支配と文化交流の歴史を今に伝えている。
現在のシダーデ・ヴェーリャは、規模こそ小さいが、歴史的建造物の修復が進み、世界各地から訪れる観光客を迎えている。アフリカにおける最初期のヨーロッパ植民都市としての価値、そして奴隷貿易を通じた人類史の痛ましい一章を物語る場所として、その意義は極めて大きい。リベイラ・グランデの歴史地区は、大航海時代の記憶、人類の交流と葛藤の歴史、そして文化的多様性の起点を示す世界的に重要な遺産として高く評価されている。


| 国名 / エリア | アフリカ / カーボベルデ |
|---|---|
| 登録年 | 2009 |
| 登録基準 | 文化遺産 (ii) (iii) (vi) |
| 備考 | ■関連サイト Cidade Velha, Historic Centre of Ribeira Grande(UNESCO) |
