トンブクトゥ(Timbuktu)は、西アフリカ・マリ共和国北部、サハラ砂漠の南縁に位置する都市で、1988年にユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されました。歴史的には、サハラ交易の重要な拠点として14世紀から16世紀にかけて繁栄し、特に金、塩、象牙、奴隷などの交易が活発に行われたことで知られます。交易都市としての経済的繁栄に加え、イスラム文化の学問と宗教の中心地としても西アフリカ全域に大きな影響を与えました。
トンブクトゥは、泥レンガ(アドベ)を用いた建築で知られ、特に三大モスクであるサンコーレ・モスク、ジェンネコロ・モスク、シンゲレコ・モスクは、スーダン様式(Sudano-Sahelian様式)の代表的建築物として高く評価されています。これらのモスクは、地域住民が協力して年に一度行う「モスク修復祭(Crepissage)」によって維持されており、建築技術と共同体の文化的連帯を象徴しています。
また、トンブクトゥは学問の都市としても知られ、14世紀から17世紀にかけて多くのイスラム学者が集まり、コーラン学習や法学、天文学などの研究が盛んに行われました。特に、**サハラ砂漠の交易路を通じて集まった書物や手稿(マヌスクリプト)**は、今日も保存されており、イスラム文化と学問の豊かな歴史を物語っています。このため、都市全体が単なる商業都市ではなく、宗教・学問・文化の結節点としての価値を持つ世界的に希少な場所とされています。
しかし、トンブクトゥは気候・環境の厳しさと人為的被害の双方に直面しています。泥レンガ建築は雨や風による侵食に弱く、定期的な修復が欠かせません。また、近年は政治的混乱や武装勢力による文化財の破壊、盗掘や書物の国外流出などが報告され、世界遺産としての保全に大きな課題があります。ユネスコやマリ政府は、地域住民と協力した修復・保護活動を継続し、建築や手稿の保存に努めています。
トンブクトゥは、サハラ交易都市としての歴史、イスラム学問の中心地としての文化的価値、独自の建築様式の保存という三つの要素を併せ持つ世界遺産です。訪れる人々は、モスクの壮麗な外観や手稿に触れることで、中世西アフリカにおける経済・学問・宗教の中心地の息吹を体感できます。今日も、トンブクトゥは歴史と文化が生き続ける都市として、地域住民の生活と結びついた文化遺産であり、西アフリカの歴史的・学問的価値を象徴する場所として評価されています。
