オカピ野生生物保護区(Okapi Wildlife Reserve)は、コンゴ民主共和国北東部のイトゥリの熱帯雨林地帯に位置する自然保護区で、1996年にユネスコの世界自然遺産として登録された。面積は約13,700平方キロメートルにおよび、アフリカ中央部に広がるコンゴ盆地熱帯雨林の約5分の1を占める。ここは、地球上でも最も古く、最も豊かな生態系のひとつを保つ地域であり、アフリカの「緑の心臓」と呼ばれる森林の核心を成している。
この保護区の名の由来となっているオカピ(Okapi)は、世界でもこの地域にしか生息しないシマウマに似た模様を持つ森林性の偶蹄類である。首や体つきはキリンに近く、四肢には黒と白の縞模様があることから「森のキリン」とも呼ばれる。オカピは、長い舌を使って高い枝葉を食べるなど、キリンと共通する特徴を持ちながら、深い熱帯林に適応して進化した固有種であり、進化史上きわめて貴重な存在である。オカピ野生生物保護区は、世界のオカピ生息数の約5,000頭を保護する唯一最大の拠点である。
保護区には、オカピのほかにも森林ゾウ、チンパンジー、レイヨウ類、レパードなどの大型哺乳類が生息し、鳥類は300種以上、植物は1,200種以上にのぼるとされる。その多様性は、アマゾンやボルネオの熱帯林に匹敵するほどで、地球規模で見ても重要な生物多様性ホットスポットの一つに数えられている。また、イトゥリ川やエプル川などが流れるこの地域は、水資源と土壌を支える生態系の要所としても機能している。
さらに、この地域にはムブティ族(ピグミー)をはじめとする先住民が暮らしており、彼らは森の恵みを利用しながら自然と共生する伝統的な生活文化を守ってきた。狩猟採集や薬草利用など、彼らの知恵は熱帯雨林と人間社会の共存のモデルとしても評価されている。ユネスコは、自然と文化の調和が見られるこの地域を「生態系と伝統的生活が共存する稀有な世界遺産」として位置づけている。
しかし、オカピ野生生物保護区は長年、武装勢力の侵入、密猟、違法伐採、金鉱採掘などの人為的圧力にさらされてきた。特にオカピの角や森林ゾウの象牙を狙った密猟は深刻で、2012年にはレンジャーやオカピが犠牲となる襲撃事件も発生した。こうした状況を受けて、保護区は**「危機にさらされている世界遺産リスト」**に登録されている。
現在、コンゴ政府や国際自然保護団体、地域コミュニティが連携し、環境教育・監視活動・持続可能な森林利用の推進など、多角的な保全活動が続けられている。とくに地元住民が保全に関与する取り組みは、自然遺産の保護と地域社会の自立を両立するモデルケースとして注目を集めている。
オカピ野生生物保護区は、アフリカ中央部に残された最後の原生林と、そこに生きる貴重な生命たちの避難所である。深い森の中で静かに息づくオカピの姿は、「自然と共に生きることの尊さ」を世界に伝える象徴的な存在となっている。
| 国名 / エリア | アフリカ / コンゴ民主共和国 |
|---|---|
| 登録年 | 1996 |
| 登録基準 | 自然遺産 (x) |
| 備考 | ■関連サイト Okapi Wildlife Reserve(UNESCO) |
