イラク北部の砂漠地帯に位置する古代都市「ハトラ」は、かつてパルティア王国の支配下にあった宗教都市であり、1985年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。紀元前3世紀から紀元後3世紀頃にかけて繁栄したハトラは、シルクロードの重要な交易拠点であり、ローマ帝国とペルシャ帝国の中間に位置する戦略的・宗教的要所として栄えました。強固な防衛機能を備えた厚い城壁と円形の都市計画が特徴で、複数の門や塔が都市を取り囲んでいました。
最大の見どころは、巨大な列柱建築と神殿群で、ギリシャ・ローマ、メソポタミア、ペルシャの建築様式が融合した独特の芸術様式を示しています。これは、東西の文化交流が活発だったことを物語っています。特に太陽神シャマシュを祀る神殿は壮麗で、ハトラが宗教の中心地でもあったことを示しています。
一時期、過激派による破壊行為によって世界遺産としての価値が危ぶまれましたが、保存と修復の努力が続けられています。ハトラは、古代オリエントにおける宗教と都市文明の融合を示す貴重な文化遺産として、現在も世界的な注目を集めています。