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概要
ドロットニングホルムの王領地は、17世紀の末、北欧のスウェーデンのローヴェン島に建てられた世界遺産です。ドロットニングホルムとは、スウェーデン語で「王妃の小島」という意味です。その美しさは、「北欧のヴェルサイユ」といわれるほどです。
ローヴェン島は、スウェーデンの首都である、ストックホルムの郊外にあるメラーレン湖というほとりに位置しており、ドロットニングホルム宮殿、宮廷劇場、中国離宮、ドロットニングホルムの庭園の4つの建物で構成されています。
アクセスは、ストックホルムから船か公共交通機関で50分ほどです。
世界遺産登録の経緯
16世紀のヨーロッパでは、産業と輸出の強化による財政や軍の整備とともに官僚制が成立し、国王が国の頂点に立つという、フランス風の絶対王制の統治システムが、各地で取り入れられていました。
当時のスウェーデンでは、農民や市民、貴族らによる身分制議会がありましたが、グスタフ3世がクーデターを起こし政権を握り、絶対王政として王の座につきます。スウェーデンの歴史では、とくにグスタフ3世の時代を指して、「グスタフ朝時代」とも呼ばれます。
このような歴史的経緯のなかで、フランス風の政治、文化がスウェーデンに影響をもたらしたのです。このようにフランス風の宮廷と庭園は、フランス文化の影響を受けたグスタフ3世の王の権威を示すもののシンボルとして、社交場などとして使われるようになりました。
その歴史的背景と、この時代の姿がそのままの風景として残されていることから、ドロットニングホルム宮殿、宮廷劇場、中国離宮、ドロットニングホルムの庭園のが、まとめてドロットニングホルムの王領地として1991年に世界遺産に登録されました。
歴史
ドロットニングホルム宮殿は、1570年ごろに国王ヨハン3世が、王妃であるカタリナ・ヤーゲロニカのために夏の別荘としてつくったのが始まりです。
しかし、王妃は宮殿の完成をまたずに亡くなり、宮殿自体も1661年に火災により焼失してしまいます。翌年の1662年にカール10世の王妃エレノアの手により、ストックホルムの王宮を建築したニコデムス・テネーシ親子により再建されます。
庭園の一角には、18世紀に改築された宮廷劇場があります。
宮廷劇場は1754年に建てられましたが、1762年8月25日のロビーサ・ウリーカ王妃の、キリスト教の世界では誕生日と同じくらい重要な日とされる「名前の日」のお祝いの公演中に起きた火災により焼失するという、悲劇に見舞われました。
現在の宮殿は1766年に、再びウリーカ王妃により再建されたものです。
ウリーカ王妃は大変に演劇を愛し、その息子グスタフ3世も自ら戯曲や詩を書くほど文学や芸術に造詣が深かったようです。しかし、そのグスタフ3世が1792年3月16日にストックホルムのオペラ座の仮面舞踏会で暗殺かれたことをきっかけに使用されなくなり、1800年ごろには、完全に閉鎖されてしまうのです。
ですが、およそ120年ぶりに復活がなされます。劇場は、大道具から小道具、舞台装置にいたるまで、そのままの姿で残されおり、保存状態が大変よかったために翌年の1922年には、すぐに劇場として使用されるようになりました。
18世紀から19世紀にかけてのスウェーデンを支配した王朝の王妃であるルヴィーサ・ウルーリカ王妃の誕生祝いに、アドルフ・フレドリック王から送られたのが中国離宮です。
この時代のヨーロッパでは、東インド会社の設立により多くの中国文化が流入し、一種の中国ブームが巻き起こっていました。その影響を受けて立てられたこの建物には、流行に敏感な王妃も大変喜びました。
1777年に、国からグスタヴ3世に宮殿が譲渡されたあとに造られたイギリス風の庭園が、ドロットニングホルムの庭園です。
建設は、1780年にイギリスで造園技術を学んだフレデリック・マグヌス・ピーペルへ依頼されました。イギリス様式庭園の様式は「自然のあるがままの姿が美しい」とされていますが、それを色濃く感じることができるのが、ドロットニングホルムの庭園です。
見どころ
ドロットニングホルム宮殿
ドロットニングホルム宮殿は、フランスのヴェルサイユ宮殿を参考にしてつくられました。そのため、宮殿はフランスのバロック様式の建物です。バロック様式とは、17世紀から18世紀にかけてのヨーロッパで流行した、建物だけではなく、彫刻や絵画を含めた複雑さや多様性がある様式のことをいいます。
歴代の王妃たちによって増改築を重ねた姿と、美しい緑の屋根とクリームの壁が見どころです。
宮廷劇場
宮廷劇場では、現在でも夏場には、当時のままの舞台装置を使うオペラが上映されています。
400人の観客席をもち、フルオーケストラの機能も備え、現在でもモーツァルトなどのオペラをはじめとした数多くの演劇が行われています。
中国離宮
ヨーロッパ風のヴェルサイユ宮殿とは、また違った雰囲気を感じることができます。当時のヨーロッパの人々の中国に対する関心の深さが、建物にあらわれています。
1階の右側には、「黄色のギャラリー」、「緑の間」、左側には「赤のギャラリー」、「青の間」あります。とくに黄色のギャラリーにある中国漆で装飾された壁からは、当時のヨーロッパではあまり見ることのできない、独特の職人芸を垣間見ることができます。
ドロットニングホルムの庭園
90haの庭園の面積が市民に無料で公開されており、それは東京ドーム19個分の広さです。綺麗に刈り込まれた植え込みと噴水による並木道が、圧巻です。
ブロンズの彫刻も多くあり、そのほとんどがデンマークやチェコとの戦争による戦利品として持ち帰られたものです。庭園を歩くと、16世紀から18世紀にタイムスリップしたような雰囲気に包まれるでしょう。