ジェンネ旧市街

Old Towns of Djenné

ジェンネ旧市街(Old Towns of Djenné)は、西アフリカ・マリ共和国の中央部、バンディアガラ地方の平原沿いに位置する歴史的都市で、1988年にユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されました。ジェンネは、サハラ交易の重要な中継地として13世紀頃から栄えた都市であり、特に塩、金、象牙、奴隷といった交易の中心として、西アフリカ経済・文化の発展に大きく寄与してきました。都市としての繁栄だけでなく、イスラム文化の伝統が地域社会に深く根付いた場としても高く評価されています。

旧市街は、泥煉瓦(アドベ)を用いた建築群で知られ、その代表が世界最大の泥造モスクであるジェンネ大モスクです。モスクは13世紀に創建され、現存する建物は1907年に再建されたもので、独特のスーダン様式(Sudano-Sahelian様式)の建築美と宗教的価値を兼ね備えています。木材が外壁から突き出す「トンゴニ」と呼ばれる支柱は、定期的な修復作業を行う際の足場としても機能し、地域住民が伝統的建築技術を維持する文化的儀礼にもなっています。

ジェンネ旧市街の都市計画は、街路や市場の配置、住居・モスクの整然とした配列が特徴で、地域の社会構造や生活様式を反映しています。住民の多くはマリ族やソンガイ族で、イスラム信仰に基づく共同体生活や集団儀礼が今も息づいていることが、文化的価値の一つとされています。また、ジェンネは学問と宗教の中心地でもあり、古くからクルアーン学習や法学教育が行われ、サハラ交易都市としての文化的影響力を西アフリカ全域に及ぼしました。

旧市街の保存には、泥建築特有の気候・環境リスクへの対応が必要です。雨季には建物の浸食が進みやすく、毎年行われる「モスク修復祭(Crepissage)」は、地域社会が協力して建築を補修する伝統的行事として、住民の文化的連帯と技術継承の象徴となっています。近年では都市化や人口増加による圧力、観光や経済開発の影響も課題であり、ユネスコは地域住民と連携した保護・管理計画を進めています。

ジェンネ旧市街は、交易都市としての歴史、イスラム文化の伝統、独自の建築技術を総合的に理解できる希少な文化遺産です。泥造の街並みやジェンネ大モスクを歩くことで、訪問者は、西アフリカにおける経済・宗教・社会の歴史と、地域住民の生活文化の連続性を実感できます。今日も旧市街は、歴史と信仰が生き続ける都市として、世界に類を見ない文化的価値を保持しており、西アフリカの文化遺産を象徴する場所として評価されています。


国名 / エリア アフリカ / マリ
登録年 1988年
登録基準 (iii) (iv)
備考 文化遺産
危機遺産 2016年

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です