世界遺産「古代都市ボスラ」は、シリア南部に位置する古代ローマ時代の都市遺跡で、交易と宗教の要衝として栄えた歴史を持つ重要な文化遺産です。ボスラは紀元前2世紀頃にはナバタイ王国の一部として存在しており、後にローマ帝国の属州アラビア・ペトラエアの首都とされました。その後、ビザンツ帝国やイスラム王朝の支配下でも発展し、多様な文化が重層的に交差する都市として長い歴史を歩んできました。

特に有名なのが、2世紀に建設されたローマ劇場で、約15,000人を収容できる規模と保存状態の良さから、ローマ建築の傑作と称されています。さらに、この劇場は後世に要塞としても利用され、軍事的にも重要な役割を果たしました。都市内には劇場のほかにも、列柱通り、浴場、キリスト教時代の教会、初期イスラム建築のモスクやマドラサ(神学校)などが残されており、多様な宗教と文明の共存を示しています。
1980年にユネスコ世界遺産に登録された古代都市ボスラは、その歴史的・建築的価値に加え、シリアの多文化的遺産の象徴ともいえる存在です。近年のシリア内戦により一部の遺構が損傷を受け、「危機にさらされている世界遺産」にも指定されています。