「アンジャル」は、レバノンのベカー高原に位置する8世紀初頭のウマイヤ朝時代の都市遺跡で、1984年にユネスコの世界文化遺産に登録されました。アンジャルは、ウマイヤ朝のカリフ・ワリード1世によって建設されたとされ、初期イスラム都市計画の貴重な例として世界的に注目されています。
この都市は、ギリシャ・ローマ、ビザンティン、ササン朝ペルシャなどの建築様式が融合された点が特徴で、東西文化が交差するレバノンならではの独自性を備えています。遺跡内には、列柱道路(カルドとデクマヌス)、宮殿、モスク、商館、浴場などが整然と配置されており、ローマ都市の構造を踏襲しつつイスラム的要素を加味した都市づくりが見て取れます。
アンジャルは長く放棄されていたため、他の都市遺跡と比べて比較的保存状態が良く、考古学的な価値が高いと評価されています。また、発掘調査によって当時の都市機能や交易活動の痕跡が明らかになりつつあり、イスラム世界の初期都市生活や行政機構の理解に貢献しています。
「アンジャル」は、イスラム都市建築の黎明期を今に伝える貴重な文化遺産であり、東西の文明が交わった歴史的背景を物語る場として、学術的にも観光的にも高い価値を有しています。